アジャイルという言葉を一度は聞いたことがあるでしょう。
しかし、それが具体的に何を意味し、どのような背景で生まれ、どう活用するのかを理解するのは容易ではありません。
この記事は、アジャイルを徹底的に解説し、その本質を明らかにします。
この記事をおすすめする人
- アジャイルの基本を学びたい人
- アジャイルの実践事例に興味がある人
- 開発手法の違いを知りたい人
アジャイルとは

ここでは、アジャイルとは何か?基本的な理念、その歴史、そして12の原則を明確に説明していきます。
- アジャイルの基本的な理念
- アジャイルの歴史
- アジャイルの12の原則
アジャイルの基本的な理念
アジャイルは、開発のプロセス中に頻繁な変更やアップデートが求められる現代のビジネス環境に適応するためのアプローチです。
迅速なフィードバックと継続的な改善を重視しており、変更への対応を簡単にし、それを価値として捉えます。この哲学は、既存の計画や仕様よりも、変化と顧客の要求に柔軟に応じることを優先しています。
アジャイルの歴史
2001年、アジャイルの歴史は一つの重要なイベント、すなわちアジャイルソフトウェア開発宣言の公表とともに始まりました。
この宣言は、17名のソフトウェア開発者が集まり、従来の開発方法の限界を超え、より効果的で柔軟な開発手法を模索する結果として生まれました。
彼らは、顧客のニーズに迅速に対応する新しい方法を共同で策定し、アジャイルという考え方を確立しました。
アジャイル開発12の原則
アジャイルの背骨とも言える12の原則は、アジャイルソフトウェア開発宣言に続くものとして提唱されました。
- 顧客満足を最優先し、価値あるソフトウェアを早期に継続的に提供する。
- 変更要求を、プロジェクトの後期であっても受け入れる。
- 動作するソフトウェアを、数週間から数ヶ月の短いサイクルで頻繁に提供する。
- ビジネスサイドと開発者は、プロジェクトを通じて毎日一緒に働く。
- プロジェクトに関与する者を信頼し、必要な環境と任務を与える。
- 直接の対話が最も効果的なコミュニケーション方法である。
- 動作するソフトウェアが進捗の主要な尺度である。
- アジャイルプロセスは持続可能な開発速度を維持する。
- 技術的卓越性と良好な設計の追求。
- シンプル。すなわち、やらなくても良い作業の最小化が必要。
- 自己組織化したチームが最もよいアーキテクチャ、要件、デザインを生み出す。
- チームは、効果的な方法での作業を振り返り、それを調整し続ける。
12の原則は、アジャイル開発の精神を明確にするための指南として機能します。主要な原則として、顧客満足の追求、変更への柔軟な対応、継続的なコミュニケーションと協力の重視などがあります。
12の原則を守ることで、チームが品質の高いソフトウェアを効率的に、かつ顧客の真のニーズに合わせて開発するための鍵となります。
アジャイルのメリットとデメリットとは

ここでは、アジャイル開発におけるメリットとデメリットをそれぞれ解説します。
アジャイルのメリット
- 柔軟性が高く変化に適応しやすい
- プロジェクト進行中でも新しい要求を迅速に取り入れられる
- 短いサイクルで実際の作業成果物を提供
- 顧客が開発の進行状況をリアルタイムで確認可能
- 高頻度のフィードバックループが高品質なソフトウェア提供を促進
アジャイル開発の主な利点はその柔軟性と顧客中心のアプローチにあります。
アジャイルは変化に適応することが得意で、プロジェクトの進行中でも新しい要求を迅速に取り入れることができます。
この適応性は、ビジネス環境や顧客のニーズが急速に変化する現代において、非常に価値があると言えます。また、実際の作業成果物を短いサイクルで提供するため、顧客は開発の進行状況をリアルタイムで確認でき、必要に応じてフィードバックを提供することができます。
このフィードバックループの短さが、高品質なソフトウェアの提供を促進します。
アジャイルのデメリット
- 経験豊富なチームに依存し、能力が不足すると効果が出にくい
- 柔軟性が過度となるとプロジェクトの方向性がブレやすい
- 期間とコストが増大するリスクがある
- 頻繁なコミュニケーションが求められる
一方、アジャイル開発にはいくつかのデメリットや挑戦も存在します。まず、アジャイルは自律的で経験豊富なチームに依存しており、チームが自己組織化する能力が不足している場合、プロジェクトの遂行に問題が生じることがあります。
また、アジャイルの柔軟性が過度となると、プロジェクトの方向性がブレやすく、結果として期間とコストが増大する恐れがあります。さ
らに、アジャイル開発は頻繁なコミュニケーションを必要とするため、リモートワークの環境や異なる文化背景を持つメンバー間でのコミュニケーションに課題が生じることがあります。
アジャイルと他の開発手法との比較

ウォーターフォール方式との違い
ウォーターフォール方式は、プロジェクトを一連の直線的なフェーズとして捉える伝統的なソフトウェア開発手法です。
要件定義、設計、実装、テスト、リリースという順番で進められます。一方、アジャイルは反復的かつ増分的に開発を行います。
ウォーターフォールが各フェーズの完了を明確にするのに対して、アジャイルは定期的なフィードバックを取り入れながら短期間のサイクルで開発を進めるのが特徴です。
項目 | アジャイル | ウォーターフォール |
---|---|---|
開発の流れ | 反復的かつ増分的 | 一連の直線的なフェーズ |
フィードバックの取り入れ | 定期的なフィードバックを取り入れながら開発 | 各フェーズの完了後にフィードバックを取り入れる可能性がある |
プロジェクトの進行 | 短期間のサイクルで開発を進める | 要件定義→設計→実装→テスト→リリースの順番で進行 |
変更への対応 | 変更に柔軟に対応し、それをプロダクトの価値向上のチャンスと捉える | 一度要件が固定されると変更が困難 |
主要な目的 | ユーザーのフィードバックに基づき、 迅速に価値を提供する | 最初に設定された要件を基に プロジェクトを完結させる |
アジャイルとDevOpsの関係
DevOpsは、開発(Dev)と運用(Ops)の壁を取り除くことを目指すアプローチであり、連続的なインテグレーション(2つ以上のモノを組み合わせて 1つのモノを作る)と連続的なデリバリーを推進します。
アジャイルがプロダクトの迅速なリリースを目指すのに対し、DevOpsはそのアジャイルの手法を基盤やインフラまで拡張していると言えます。
両者は異なる手法ではあるものの、迅速なリリースと高品質のソフトウェアを提供するという目的で共鳴しています。
項目 | アジャイル | DevOps |
---|---|---|
定義 | アジャイルは、迅速かつ柔軟にソフトウェアの開発と改善を行う方法論や手法の総称。 | DevOpsは、開発(Dev)と運用(Ops)の間のコラボを強化し、ソフトウェアのリリースと運用を効率的に行う文化、運動、または手法。 |
目的 | 顧客の要求を迅速に反映し、継続的な価値提供を行う。 | ソフトウェアのリリースサイクルを短縮し、継続的なデリバリーと運用の効率化を達成する。 |
焦点 | 製品の開発フェーズ。フィードバックを元に素早くアイテレーションを行う。 | 開発から運用にかけての全体のライフサイクル。自動化と協力を通じて、高品質なソフトウェアを迅速にリリース。 |
主なツール | Scrum, Kanban, XPなどのアジャイルフレームワーク。 | Jenkins, Docker, Kubernetes, AnsibleなどのCI/CDツールやコンテナ技術。 |
文化 | コラボレーションと顧客中心。変更を歓迎し、頻繁にフィードバックを取り入れる。 | 運用と開発の壁を取り払い、継続的な学習と改善の文化を促進。 |
アジャイルとデザイン思考の連携
デザイン思考は、ユーザー中心のアプローチを取り、問題解決のための革新的なアイディアを生み出すプロセスです。
アジャイル開発はそのアイディアを迅速に実現するための手法として、デザイン思考と連携しうる。デザイン思考で得られた洞察やプロトタイプをアジャイルのスプリント内で具現化し、ユーザーからのフィードバックを直接取り入れることができます。
この連携によって、ユーザーニーズに合わせた高品質なプロダクトの開発が期待されます。
アジャイル開発の方法論とフレームワーク

スクラムとは
スクラムは、アジャイル開発の最も一般的なフレームワークの一つです。
小さなチームが短期間(通常2〜4週間)のスプリントと呼ばれる反復の中で製品の成果物を生み出していく方法論です。
スクラムには、プロダクトオーナー、スクラムマスター、開発チームという役割が明確に分けられています。
毎日の立ち会いであるデイリースクラムや、スプリントレビュー、スプリントレトロスペクティブなどの定期的なミーティングが特徴的です。
エクストリームプログラミング(XP)とは
エクストリームプログラミング(XP)は、コードの品質を高めることに焦点を当てたアジャイルの手法の一つです。
テスト駆動開発、ペアプログラミング、リファクタリングといった技術的な側面を強調しています。
XPはフィードバックのループを短くし、変更を歓迎する文化を持っています。また、顧客の近くで開発することを奨励しています。
カンバンとは
カンバンは、タスクや作業の流れを視覚化するためのシンプルなアジャイル手法です。
カンバンボードと呼ばれるツールを用いて、タスクのステータスや進行状況を一目で確認できるようにします。
ワークインプログレス(WIP)の制限を設けることで、チームの生産性を向上させることが狙いです。
レーンスタートアップとは
レーンスタートアップは、新しい製品やサービスを市場に投入する際のリスクを最小限に抑える手法として提案されました。
この方法論は、最小限の機能を持つ製品(MVP: Minimum Viable Product)を早期に市場に出して、顧客の反応やフィードバックを得ながら製品を継続的に改良していくという考え方に基づいています。
DSDMやCrystalなどのその他の方法論
DSDM (Dynamic Systems Development Method) や Crystal は、アジャイルの原則に基づくが、スクラムやXPとは異なる特有の手法や考え方を持つフレームワークや方法論です。
DSDMは、プロジェクトの全体のライフサイクルをサポートするためのアプローチを提供します。一方、Crystalは、プロジェクトのサイズや重要性に応じて変わる一連のアジャイルプロセスを提供します。
アジャイル開発の成功事例と失敗事例
最後に、アジャイル開発の成功事例や失敗事例について紹介します。
アジャイル成功事例の紹介
アジャイル手法が導入され、その結果プロジェクトが成功した事例について紹介します。
これらの事例は、アジャイルの手法や理念が適切に実施された場合の成果や利点を実際のプロジェクトを通じて示すものです。
Spotify
Spotifyは、アジャイル開発の一環として「スクワッド(Squad)」という独立した小さなチームを導入しています。
これにより、各チームが自律的に動きながらも、全体のビジョンや戦略に沿った製品開発が行えるようになっています。
このスクワッドの導入により、迅速なフィードバックループと高速なリリースサイクルを持つアジャイル開発が実現されています。
ING Bank
ING Bankは、企業全体でのアジャイル変革を進めることで、顧客中心のサービス開発やイノベーションの促進を目指しました。
伝統的な組織構造を解体し、約350の自律的なアジャイルチームを形成。これにより、顧客ニーズに迅速に応える製品開発やサービス改善が行えるようになりました。
Salesforce
Salesforceは、アジャイル開発手法を採用することで、大規模なソフトウェアプロジェクトでも高頻度のリリースサイクルを実現しています。
開発チームはスクラムをベースとしたアジャイル手法を活用し、短期間でのイテレーションを行いながら顧客のフィードバックを取り入れて製品を改善しています。
アジャイル導入での失敗事例と教訓
成功事例だけでなく、アジャイルの導入や実践で失敗した事例も非常に価値があります。
ここでは、アジャイルを導入する際に遭遇したトラブルや問題点、そこから得た教訓について詳しく解説します。
大手製造業のアジャイル移行失敗
大手の製造業企業がアジャイルを導入した際、全社的にアジャイルへの移行を急ぎ過ぎた結果、従業員間の混乱や作業の停滞が生じました。
アジャイルの手法やツールを一気に取り入れたことで、チームがそれぞれのツールや方法に慣れる前に新しいものが導入され、混乱が拡大したのです。
アジャイル導入時は段階的に進め、組織やチームの状況を確認しながら適切なペースで変革を進めることが重要です。
ITスタートアップのコミュニケーション不足
あるITスタートアップ企業では、アジャイル開発を採用したものの、チーム内のコミュニケーションが不足していました。
定期的なスタンドアップミーティングは行われていたものの、具体的なタスクの進捗や困っていることについての共有が十分に行われていなかったため、作業の遅延や品質の低下が発生しました。
アジャイル手法を導入するだけでは不十分で、チーム内のコミュニケーションの質や頻度を確保することが重要です。
フィンテック企業のスコープの拡大
フィンテックの企業がアジャイルを取り入れた際、スプリントの途中で要求の変更や機能の追加が頻発しました。
これにより、開発スケジュールが遅れ、結果的には製品のリリースが遅延してしまいました。
アジャイル開発においても、スプリントのスコープは明確にし、途中での変更を最小限に抑えることが成功への鍵となります。
まとめ
この記事では、アジャイルとは何かについて、具体的に解説しました。
アジャイルは、迅速なフィードバックと継続的な改善を中心とした開発手法として、多くの現代のビジネスやプロジェクトで広く採用されています。
その基本的な理念、歴史、そして12の原則は、その動きの背骨となっています。
アジャイルを理解し、適切に導入・実践することで、組織やプロジェクトは持続的な成果を上げることができるでしょう。